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長野地方裁判所 昭和55年(わ)31号 判決

本籍

長野県飯山市大字照岡三、二二六番地一号

住居

同県佐久市大字中込一、九八五番地ノ一

医師

齋藤健一

大正一五年九月一一日生

右の者に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官渡邊繁年出席の上審理して、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金二、五〇〇万円に処する。

被告人において右罰金を完納することができないときは、金五〇、〇〇〇円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、長野県佐久市大字中込一、九八五番地の一において、産婦人科医院を経営しているものであるが、自己の所得税を免れようと企て、自由診療収入の一部を除外し、架空の薬品の仕入れを計上するなどの方法により所得の一部を秘匿したうえ、

第一、昭和五一年一月一日から同年一二月三一日までの所得金額は七二、八五六、〇三〇円で、これに対する所得税額は三八、四二四、三〇〇円であるのにかかわらず、昭和五二年三月一五日、長野県佐久市大字岩村田字内西浦一、二〇一の二所在の佐久税務署において、同税務署長に対し、所得金額は一七、〇四九、九三六円でこれに対する所得税額は三、九三三、九〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により被告人の右正規の所得税額と右申告税額との差額三四、四九〇、四〇〇円を免れ、

第二、昭和五二年一月一日から同年一二月三一日までの所得金額は八九、七三二、四七二円でこれに対する所得税額は五〇、三三八、九〇〇円であるのにかかわらず、昭和五三年三月一五日、前記佐久税務署において、同税務署長に対し、所得金額は、二二、四〇三、〇八六円でこれに対する所得税額は六、三〇七、五〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により被告人の右正規の所得税額と右申告税額との差額四四、〇三一、四〇〇円を免れ

第三、昭和五三年一月一日から同年一二月三一日までの所得金額は、八六、四七一、三八四円でこれに対する所得税額は四七、九一三、〇〇〇円であるのにかかわらず、昭和五四年三月一五日、前記佐久税務署において、同税務署長に対し、所得金額は二四、三七二、二一四円でこれに対する所得税額は七、三五五、九〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により被告人の右正規の所得税額と右申告税額との差額四〇、五五七、一〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実につき

一、被告人の当公判廷における供述

一、被告人の検察官に対する供述調書

一、大蔵事務官作成の入院患者の窓口現金収入金額調査書と題する書面

一、大蔵事務官作成の振込による自由診療収入金額調査書

一、大蔵事務官作成の配当収入及び配当所得調査書と題する書面

一、大蔵事務官作成の雑収入調査書

一、大蔵事務官作成の簿外収入金額調査書

一、大蔵事務官作成の仕入金額及び簿外買掛金調査書

一、大蔵事務官作成の架空仕入金額調査書(荻原龍雄分)と題する書面

一、荻原龍雄の答申書

一、右同人の大蔵事務官に対する供述調書(質問てん末書)

一、佐久税務署長作成の証明書と題する書面

一、斉藤陽子の検察官に対する供述調書

判示第一の事実につき

一、大蔵事務官作成の修正損益計算書(昭和五一年度)と題する書面

一、大蔵事務官作成の調査所得(調査による増減金額)の説明書と題する書面(昭和五一年度分)

一、大蔵事務官作成の脱税額計算書と題する書面(昭和五一年度分)

判示第二の事実につき

一、大蔵事務官作成の修正損益計算書(昭和五二年度)と題する書面

一、大蔵事務官作成の調査所得(調査による増減金額)の説明書と題する書面(昭和五二年度)

一、大蔵事務官作成の脱税額計算書と題する書面(昭和五二年度分)

判示第三の事実につき

一、大蔵事務官作成の修正損益計算書(昭和五三年度)と題する書面

一、大蔵事務官作成の調査所得(調査による増減金額)説明書と題する書面(昭和五三年度分)

一、大蔵事務官作成の脱税額計算書と題する書面(昭和五三年度分)

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条(一二〇条一項三号)に該当するところ、情状により所定刑中懲役刑及び罰金刑を併科することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により最も犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については所得税法二三八条二項、刑法四八条二項により各罪につき免れた所得税額に相当する金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六月及び罰金二、五〇〇万円に処し、被告人において右の罰金を完納することができないときは同法一八条により金五〇、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

被告人の本件犯行は、その免れた税金が一億円以上の多額にのぼっており、納付すべき金額に比べ免れた金額の率も著しく高率であって、国民の大多数が乏しい収入のなかから正しく納税していることにかんがみると、被告人の本件はいかにも不当であり、その刑責はとうてい軽視しうるところではない。ただ、他方、本件犯行の動機は、被告人自身腎臓が悪く、また長男も病弱であることから、被告人において自分にもしものことがあっても残された家族が生活に困らないだけの資産を早く残そうと考えたことによるものであり、免れた税金の使途もその目的に沿う割引債等の購入、古銭の収集などにあてられ、遊興目的に費消された形跡はない。さらに、被告人は、これまでに格別の前科はなく、本件後は深くその非を反省悔悟してひたすら謹慎につとめており、本税、延滞税、重加算税等をもすみやかに納付していることが認められるので、これら被告人に有利な情状も総合勘案して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小林宣雄)

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